2022/01/24 14:07

私は元々はドイツ文学、正確にはオーストリア文学の研究者を目指していたのですが、

図書館での調べ物中毒になり、ひょんなことから神保町のお店で働くことになり、

すっかり本の世界にのめり込んで本屋になりました。

じつは、それ以前、大学院を出て博士論文を書いている間、
複数の大学の非常勤講師として働き始める直前に、
京都の至成堂書店でパートで働いたことがあります。
私の本屋としての原点のように思います。
少しここに思い出を記しておきたくなりました。
(後半はこのオンラインショップの話です。)

(写真は、2019年9月6日 閉店直前の至成堂書店)


至成堂書店では、人文系研究者向けの専門書が取り扱われていました。会社は北大路烏丸を下がったところにありました。
建物の一階と二階が店舗で、どちらかで店番をしながらタイプライターで書類を作るのが私の仕事でした。
お店はいつも静かでお客さまはほとんどありません。そもそも一般に門戸を開いていない専門店だからです。

しんとした店内には、私が打つタイプライターの音が響き渡ります。
疲れて打つ手を止め、キーボードから目をあげると、本棚には延々と本が並んでいます。
とりわけよく覚えている光景は、ガリマールのプレイヤード叢書の棚とレクラム文庫の棚です。
それぞれの背が何百冊と並べられた様子はじつに美しいものでした。
量産品ではあれ、それらの棚に美しさを感じた体験こそ、私にとって、
フランスとドイツの装幀文化に初めてふれたときだったのかもしれないと思います。かけがえのない時間でした。


ところで、お店はしんとしずまりかえっていますが、その裏側はそうではありません。
社員さんたちが毎日何冊もの本を車に積み込んでは、営業に繰り出されていくのです。
私の仕事は、多くはその個々の本にはさむ見計らい伝票を作ることでした。
営業の仕事を支えるため、集中してたくさんの本のデータをとりました。

そんな至成堂書店に倣って開業当初私が目指したことは、店を構えることではなく、
本を持って行商することでした。
お客さまに自分から働きかけて、欲しいと思われる本をおすすめしてみたり、
探求依頼を受けて探したりして、ひたすら狭く専門的な本屋になることを夢見ていました。
もとが研究者ですので、いくぶん浮世離れして流行などにはうといので、
研究者の好みなら一般の人向けのものよりも分かるような気がしていたからです。

しかし、このコロナ禍で、頻繁な出張はすっかりかなわなくなりました。
そこで、もともと細々とやっていた「日本の古本屋」に加えて、このオンラインショップを開設しました。
一年ほど前から少しずつ手を加えてきましたが、ずっと感じてきた違和感が、
「カテゴリー」を直すことで先日解消し、ようやく私なりのお店に整ってきたかなという気がしています。


先述しました私のこれまでの人生経験上、思わず堅苦しい本の選定になってしまうのですが、
それも多様性と思って面白がっていただけましたら幸いに存じます。
(専門書は多くは「日本の古本屋」の方にあげています。
研究者の方はそちらものぞいていただけましたらと存じます。)

本の商いの先輩方にはまだまだはるかに及ばないものの、溜まりに溜まってしまった在庫がありますので、これから少しずつ掲載していくことができたらと考えています。
(現在の掲載分以外にも在庫しておりますので、お気軽にお問い合わせを賜われば幸甚です。
インターネットの合理性を最大限に生かすべく、
今後、掲載分量をあえて減らし見ていただきやすいようにする可能性も探っています。)


たくさんのお客さまに見ていただけますよう、
本を愛する方々にお会いできますことを心待ちにいたしております。

今後ともいっそうのご愛顧を賜りますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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下の写真は、数年前閉店しました至成堂書店の2007年の目録です。
一年に一度の目録冊子発行の際には、いつもは営業に出られる人たちも会社におられ、
社員総出でタイプライターを一日中打ったような記憶があります。
事務所が複数のタイプライターの音でいっぱいになりました。
まるでタイプライターの演奏会のようでした。今も耳に残っています。