2022/05/04 18:32

『すばらしいとき〜絵本との出会い(渡辺茂男著 大和書房、1984年)』を入荷しました。

絵本作家モーリス・センダックのことがたくさん書いてあります。



センダック の絵本は幼い頃たくさん読みましたが、
初めて手にとったのは、
『まどのそとのそのまたむこう(Outside Over There)』でした。




あの本の絵のうすきみわるさ。子供時代の私には強烈な印象でした。
唯一息がほっとつけるのは、「あずまや」の「お母さん」の存在だったような記憶ですが
その「お母さん」のことは顔も覚えていません。代わりに思い出すのは、顔のないゴブリンはもちろん、主人公も赤ちゃんたちも、
登場人物たちの暗さと不気味さばかりです。
以前書きました『雪の女王』と同じく、怖いからこそひきつけられては何度もこの絵本を開き、その挿絵に見入り、
物語を味わったものでした。



この度、渡辺茂男氏の著作をのぞいてみて、ひとつ大変驚いたことがあります。
センダックの『まどのそとのそのまたむこう(Outside Over There)』は、ドイツロマン派の画家フィリップ・オットー・ルンゲ(1777-1810)の作品をオマージュして描かれたものだというのです。

172頁より。(『まどのそとのそのまたむこう(Outside Over There)』は、『そとはすぐそこ』と訳されています)
〜センダック は、「ルンゲの印象は強烈だった。『そとはすぐそこ』の最後にかいた表紙カバーの絵は、ルンゲの『ヒュルゼンベック家の子どもたち』に捧げたものです。」と語る。「くるまにのせられ、必死になってひまわりをにぎっている太った赤んぼの表情は、世にも恐ろしいものです。動物的なのです。これまでわたしが見た絵のうちで、もっとも強烈な一枚です。」〜




若い頃一生懸命に勉強したドイツ芸術と幼い頃の読書体験が、思いがけずつながり嬉しくなりました。

そもそも、児童文学とロマン主義との接点を渡辺氏の文章が喚起していることは、非常に重要なことだと思われます。
「子供」はいかにして「子供」となったのかという、
児童文学研究における根本的な大きな問いかけは、ロマン主義の時代に根ざすものだからです。
子供のための本が出版され始めたのも、まさにその時代なのです。
弊店で現在お取り扱いしている、コメニウス の『世界図絵』の1832年版などは、典型的なその時代の書物です。


ところで、センダックの『まどのそとのそのまたむこう(Outside Over There)』は、
新しい訳では「お父さんがかえる日まで」とタイトルが変わったのですね。

下記は、合わせて入荷しましたセンダック の『ミリー』、
原作はロマン主義の時代にグリム童話を編集したヴィルヘルム・グリムです。
画風は『まどのそとのそのまたむこう(Outside Over There)』とよく似ています。